認定医による、短頭種や重症患者などのハイリスクの麻酔管理を実施しております。
痛みやストレスからわんちゃんとねこちゃんを守るのが麻酔の役目です。例えば外科手術では大きな痛みとストレスがかかるため、全身麻酔が必要になります。骨折時のレントゲン検査など、検査で痛みを感じる恐れがある場合にも鎮静薬や鎮痛薬を使用することがあります。その他、病院に来ることで大きなストレスを感じてしまう場合には、事前に気持ちを落ち着かせる薬を処方したり、来院してからお注射で鎮静薬を使用したりします。
どれだけ健康なわんちゃん・ねこちゃんでも、麻酔は100%安全とは言い切れません。当院では米国麻酔学会(American Society of Anesthesiologists)による全身状態の評価指標である「ASA-PS分類」を用いて術前の麻酔リスク評価を行い、リスクに応じた麻酔計画を行っています。ASA-PS分類はclass1からclass5までの分類があり、数字が大きくなるにつれて麻酔リスクが上昇します。class分類のための全身の評価には、血液検査・レントゲン検査・超音波検査・心電図検査などを適宜行っています。
臓器疾患のない正常な動物
軽度の全身性疾患のある動物
重度の全身性疾患に罹患しているが、全く動けない状態ではない動物
全身性疾患で活動できず、常に生命が脅かされている動物
手術に関係なく24時間生存することができない瀕死の動物
周術期の痛みの管理として、先制鎮痛とマルチモーダル鎮痛という考え方があります。先制鎮痛は言葉の通り、痛みが起きる前に鎮痛治療を実施することです。マルチモーダル鎮痛とは、作用の異なる複数の鎮痛薬を併用することでそれぞれの薬の副作用を最小限にしつつ鎮痛効果を最大にする方法です。当院ではこれらの考え方のもと、術前評価に基づき適切な薬を組み合わせて手術前後の疼痛管理を行っています。
手術の際に、該当部位を支配する痛覚神経の伝達をブロックすることを局所麻酔と呼びます。局所麻酔を用いると痛みが脳に伝わらないため、手術中は全身麻酔薬の必要量を減少させることができ、手術後は回復がとても早くなります。当院では神経刺激装置やエコーガイドを用いて局所麻酔を実施しています。下表は各手術に対する局所麻酔の一例です。
上顎神経ブロック、下歯槽神経ブロック
腕神経叢ブロック、RUMMブロック
大腿・坐骨神経ブロック
肋間神経ブロック、傍脊椎ブロック
硬膜外麻酔
精巣ブロック
手術中にはモニター等を用いて全身状態を監視し、適宜投与する薬剤の量を調節します。麻酔中には血圧の低下や呼吸の低下など、様々なトラブルが生じる恐れがあります。それらのトラブルの兆候をいち早く察知し原因を対処することが麻酔科の役目です。
手術後は動物の状態を注意深く観察し、痛みを感じている場合は麻薬性鎮痛薬等の追加投与等を行います。当院では前項のように先制鎮痛を大切にしているため、術後に強い痛み止めを必要とする事はほとんどありません。痛みレベルの評価にはGlasgowの疼痛スケールを用いて客観的な評価を行っています。